スマホ決済は古い? 中国に広がる顔認証搭載レジ

店頭で画面をのぞき込むだけ

上海のKFC店舗に置かれた顔認証決済システムの端末 PHOTO: QILAI SHEN/BLOOMBERG NEWS

中国の巨大テクノロジー企業はモバイル決済を大衆に広めることでは米企業を一足飛びに追い抜いた。次はスマートフォンを使わず、単に画面をのぞき込むだけで決済する方法を試している。

アリババグループ傘下のアント・フィナンシャル・サービス・グループは「支付宝(アリペイ)」、テンセントホールディングスは「微信支付(ウィーチャットペイ)」とそれぞれ中国2大電子決済ネットワークを展開している。この両社の間で、キャッシュレス社会の次のステージをめぐる主導権争いが激しくなってきた。中国全土の店頭に自社ブランドの顔認証スクリーンを設置することを目指し、それぞれが小売店に対し販売スピードや効率性を高める手段として売り込み攻勢をかけている。

 両社はこの数カ月間に競合する2つの決済システムを商品化し、さらに改良した。7億人のアクティブユーザーを持つアリペイを運営するアントは昨年12月、先に店頭レジ用の顔認証決済装置を売り出した。続いてテンセントが今年3月、個人の好みに応じてスマホのQRコードの読み取りでも顔のスキャンでも決済が可能なウィーチャットペイの新システムを発表した。翌月、アントはアリペイの顔認証システムのアップグレード版を発売。サイズはタブレット端末「iPad Mini(アイパッドミニ)」くらいに小型化され、価格は最初の顔認証決済システムの約3分の1の1999元(約3万1000円)に抑えた。

アナリストはこの装置がすでに定着し始めたとみている。

「中国では顔認証がかなり成熟した段階に発達している。今後はキャッシュレス取引の標準的機能として取り入れられる可能性が高い」。蘇寧金融研究院のアナリストはこう話す。

こうした動きが注目されるのは、アリペイとウィーチャットペイが合わせて中国の第三者モバイル決済サービス市場の9割近くを占めるからだ。インターネット調査会社の比達諮詢(ビッグデータリサーチ)によると、昨年の同市場の取引総額は160兆元(約2500兆円)に達している。

アリペイとウィーチャットペイは人々が決済ネットワークを利用するたびに小売業者から少額の手数料を徴収する。だが利用者数や取引額の伸び鈍化に伴い、両社の間では争奪戦が激しくなっている。アントは4月、新しい端末を購入する商店への奨励金とその端末で商品を買う利用客への払戻金に30億元を投じる考えを明らかにした。

両社はいずれも新技術を導入した商店の数を公表していない。だがアリペイまたはウィーチャットペイを利用できる顔認証装置は、中国各地の自動販売機や食料雑貨店、病院でも目につくようになった。両社の端末には本人認証のために顔の細部まで捉えられる3次元カメラが搭載されている。

中国はこれまで顔認証技術の開発最前線を走ってきた。この技術は今や、政府や企業による市民や従業員の監視システムから公衆トイレのペーパーホルダーに至るまであらゆる場所に使われている。アントとテンセントは顔認証技術企業にも出資している。顔認証ソフトを開発する商湯科技(センスタイム)はアリババから数億ドルを調達した。同業の北京曠視科技(メグビー)はこれまでの資金調達ラウンドでアリババとアントから資金を受け入れた。アントは2016年に米ミズーリ州カンザスシティのアイベリファイを買収。翌年この会社はゾロスと社名変更した。

アントの本社がある杭州では、米フライドチキンチェーンKFCの店舗が中国国内で初めてアリペイの顔認証決済技術を導入した。利用者は初回に携帯番号を入力し、このサービスとアリペイにある自身の口座を連携させる必要がある。そうするとスマホを使わずにこの装置だけで決済できるようになる。

中国大手ベーカリーチェーンの味多美(Wedome)はアリペイの最新の顔認証決済装置を300以上の小売店舗やレジ係のいない売店で利用している。売店では人々がケーキやパンを陳列棚から取り出し、自分で支払いをする。

味多美の最高情報責任者(CIO)、胡博氏は、顔認証決済装置はレジ係の仕事を60%以上効率化できたと話す。また一部の店舗では、顧客の70%強が今では顔のスキャンによる支払方法を選択しているという。

潜在的な問題としてプライバシーへの懸念がある。中国支付清算協会が行った2018年の調査では、モバイル決済利用者の85%が顔や指紋などの生体認証による決済に前向きだった一方で、個人データの安全性を最大の懸念として挙げる人が70%を超えた。

また一部の利用者は、顔認証技術が思ったほどスムーズではないと話す。南京の金融企業で働くツァン・リンリンさん(31)は3月、鉄道の駅でアリペイの装置を使ってボトル入り飲料水の代金を支払ったが、手続きが面倒だったという。

ツァンさんは初の利用だったため、自分の顔の画像とアリペイの口座を連携させるまでに何度もトライしなくてはならなかった。また別の機会には、ツァンさんが決済しようとするとカメラが顔全体の画像を捉えられなかった。カメラの位置が高すぎたのが理由だ。「私は単なる好奇心から試してみた。だが時間がないときは使わないと思う」

一方、杭州の大学生ワン・ハオウェイさん(19)はコンビニや大学の自動販売機では顔認証による支払いが気に入っているという。

「すごく便利だ」とワンさんは話す。それにスマホのバッテリーが減った時にモバイル決済ができなくなる不安から解放されると指摘した。

引用:THE WALL STREET JOURNAL  https://jp.wsj.com/articles/SB11082206419117534460204585360091179878272

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